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高森明勅
2015.8.31 14:41

メディアへのコメント

8月にメディアから求められてコメントしたのは、2つ。

1つは、8月上旬に毎日新聞から靖国神社について取材を受けた。

それが記事になったのは13日付朝刊。

15分位、喋ったうち、紙面に載ったのは次の通り。

「〔安保関連法案を巡る〕国会論議は死者が出る可能性を
ごまかしている。
実際に死者が出ても政府は(戦争でないとして)戦死と
認めないかもしれない。

その時、靖国が独自の判断で祭るには、さまざまな困難が伴う」
これまで・これから戦後70年シリーズ第9回)。

はじめ、新聞社側は私の肩書を靖国神社崇敬奉賛会顧問としていた。

だが、会とは関係ない個人的な見解なので、変更して貰った。

なお、取材を受けた後、靖国神社広報課は殉職自衛官の合祀は
全く考えていない」との見解を明らかにした。

この件については、改めて。

もう1つは週刊ポスト。

いわゆる安倍談話について。

安倍談話の印象は、村山談話を事実上撤回する目的で
発案されながら、
政治的事情で不可能になり、やむなく村山談話を
極力薄めた内容にしたということです。

本当はもっと安倍色を前面に出した強気な談話にしたかったのに、
安保法制で支持率が下がり、これ以上落とせなくなった。

公明党の顔色も窺う必要があった。

そのために入れる予定になかったおわびや植民地支配といった言葉

盛り込んで玉虫色の巧妙な談話に仕上げた。

まさに政治的妥協の産物になってしまった」

「談話には『アジアで最初に立憲政治を打ち立て、
独立を守り抜きました』
とか、
『日露戦争は、植民地支配のもとにあった、
多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました』など
安倍応援団的な保守派が喜びそうなフレーズがてんこ盛りに
っている。

一方で、戦後70年談話なのだから昭和の戦争についての認識を
明確に語る
べきなのに、大東亜戦争や支那事変といった言葉さえ
出ていない。

あえていえば読み手の誤解を意図的に狙うような
トリッキーな文章
です」
(9月4日号)

1ヵ所だけ、安倍談話の酷い例を挙げておこう。

「事変、侵略、戦争。
いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、
もう2度と用いてはならない。

植民地支配から永遠に訣別し、
すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない

まず、単純に国語として変。

侵略という言葉は、事変や戦争と並列して使う語ではない。

事変や戦争について、その目的が侵略か自衛かが問われるという
関係だ。

なのに、とにかくアリバイ的に「侵略」をどこかに
入れておく必要があったので、
語法上の誤りがあろうが
お構い無しに使ったのが、見え見え。

武力の威嚇」というのも舌足らず。

中学生の作文でも減点されるレベル。

これは勿論、憲法第9条第1項にある表現を下敷きにしている。

武力による威嚇又は武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」

という例の条文だ。

この中に「国際紛争を解決する手段としては」とあるのは、
パリ不戦条約(ケロッグ・ブリアン条約)
の表現を踏まえていて、
侵略戦争を意味する。

だから、談話で
国際紛争を解決する手段としては、もう2度と用いてはならない」
と述べているのは、端的には侵略戦争を繰り返してはならないとの
意思表明。

もう2度と」だから、かつて侵略戦争をしたことが前提だ。

植民地支配から永遠に訣別」も同様。

「訣別」するんだから、以前は植民地支配をしていた、ということ。

こういう手の込んだ形で、村山談話の「侵略」「植民地支配」
という
歴史認識を、しっかり踏襲している。

だが、それを分かりにくくし、「極力薄め」ているのだ。

前後のパラグラフでは「我が国」が主語であることが明確なのに、
この箇所だけは、それがわざと曖昧にされている(英文でも)のも
同じ意図。

しかし文脈上、
「いや、ここだけ主語は“世界のみんな”です」なんて逃げ口上は、
通用しない。

まことに姑息で「トリッキーな」談話だった。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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